Skin Longevity 連載

エアコン下の見えない乾燥——TEWLとバリア機能の科学

KAIAN R&D Team | 公開: 2026年8月11日

真夏に冷房の効いた室内で長時間過ごしたあと、頬の内側がつっぱる、ファンデーションが粉を吹く、夕方になると小じわが目立つ——そんな経験はないでしょうか。気温も湿度も高い季節なのに肌が乾く、という一見矛盾した現象には、明確な構造的理由があります。今回は「経表皮水分蒸散(TEWL)」という指標を軸に、角質層がどのように水分を抱え、なぜエアコン下でそれが奪われるのかを、層の構造から丁寧に見ていきます。

1. TEWLとは何か——肌から逃げていく水の量

TEWL(Transepidermal Water Loss、経表皮水分蒸散量)とは、肌の内側から角質層を通り抜けて空気中へ蒸発していく水分の量を指します。皮膚科学の研究では、このTEWLがバリア機能の健全さを示す最も基本的な指標のひとつとして扱われてきました。バリアが整った肌ではTEWLは低く保たれ、バリアが乱れるとTEWLは上昇する——つまり「水が逃げやすい肌」になります。健常な角質層は、ただの死んだ細胞の積み重ねではなく、水分の流出を精密に制御する半透膜のように働いていることが報告されています。

ここで重要なのは、TEWLは「肌の表面が濡れているかどうか」とは別の話だということです。表面がしっとり見えても、内側から水分が抜け続けていれば、それは構造的には乾いていく肌です。エアコンの送風は空気中の湿度を下げ、肌表面と外気の水蒸気の勾配を大きくします。この勾配が大きいほど、物理的に水は外へ移動しやすくなる。冷房下で肌が乾くのは、気温の問題というより「乾いた空気が水を引っ張る」現象なのです。

角質層の三段保水システムとTEWL水が逃げる経路と、それを抑える三つの構造皮脂膜(最上層の蓋)皮脂と汗が蒸発を緩める表面の膜細胞間脂質ラメラ(モルタル)セラミド主体で水の通路を塞ぐNMF(細胞内のスポンジ)アミノ酸・PCAが細胞内に水を抱えるTEWL上昇(乾いた空気)エアコンが勾配を広げ水を引き抜く

2. 角質層はどう水を抱えているか——レンガとモルタル

角質層の構造は、しばしば「レンガとモルタル」に例えられます。レンガにあたるのが角質細胞(コーニファイドセル)、そのすき間を埋めるモルタルが「細胞間脂質」です。このモルタルの主役がセラミドで、コレステロールや遊離脂肪酸とともに規則正しいラメラ(層状)構造をつくり、水分の通り道を物理的に塞いでいます。研究では、このラメラ構造が乱れるとTEWLが上昇し、外部刺激も侵入しやすくなることが示されています。

一方、レンガであるそれぞれの角質細胞の内部には、水を抱え込む小さなスポンジが詰まっています。これが「NMF(天然保湿因子、Natural Moisturizing Factor)」です。NMFはアミノ酸、PCA-Na、乳酸塩、尿素などの低分子の集合体で、空気中や肌内部の水分を引き寄せて細胞内に保持します。さらに角質層のさらに上層では、皮脂と汗が混ざった皮脂膜が、最後の蓋として水分の蒸発を緩やかにしています。脂質のラメラ・細胞内のNMF・表面の皮脂膜——この三段構えが、肌の保水システムの正体です。

肌の潤いは「水を足すこと」ではなく「水を逃がさない構造を保つこと」で決まる。化粧水をいくら重ねても、モルタルが崩れていれば水は同じ速さで抜けていく。

3. ヘパラン硫酸とインナードライの構造

水分保持を語るとき、近年注目されているのがヘパラン硫酸ヒアルロン酸に代表される糖鎖・グリコサミノグリカンです。これらは自重の何倍もの水を抱え込む保水力を持ち、真皮から表皮にかけての水分環境を支えていると報告されています。ヘパラン硫酸は細胞の表面で水分や成長因子の受け渡しに関わるとされ、肌のうるおいだけでなく細胞間のコミュニケーションにも関与する点で研究が進んでいます。

「インナードライ」と呼ばれる状態は、こうした保水システムが部分的に破綻したサインと捉えると理解しやすくなります。表面の皮脂は出ているのに内側は乾いている——これは、バリアが乱れてTEWLが上がった肌が、水分不足を補おうとして皮脂分泌を高めている可能性が指摘されている状態です。つまりテカリと乾燥は対立するのではなく、同じ「水が抜ける構造」から生まれる二つの表情なのです。皮脂を取り除くケアだけを続けると、かえって乾燥が悪化し、TEWLがさらに上がるという悪循環に陥りやすいことも、構造から説明できます。

4. KAIANの視点——「足す」より「逃がさない」

KAIANが掲げる「Skin Longevity(肌の機能寿命を延ばす)」という思想から見ると、エアコン下の乾燥対策の本質は、失われた水を一時的に足すことではなく、水を逃がさない構造そのものを保つことにあります。バリア機能は加齢とともに回復が緩やかになることが知られており、夏のあいだに繰り返しTEWLが上がる環境にさらされることは、長期的に見れば肌の機能を消耗させる要因になりえます。エイジングを「治す」のではなく、機能を保つ——その視点では、見えない乾燥こそ優先度の高い課題です。

成分の選び方としては、第一に角質層のモルタルを補う発想が理にかなっています。セラミドフィトスフィンゴシンはラメラ構造の材料として、ヒアルロン酸ヘパラン硫酸グリセリンベタインは水を抱える吸湿剤(ヒューメクタント)として、そしてスクワランシア脂は表面からの蒸散を抑える閉塞剤(エモリエント)として、それぞれ役割が異なります。荒れた肌の鎮静にはパンテノールアラントインが、バリア由来の刺激への研究報告とともに用いられます。なお、これらの保湿設計を体系的に統合した製品ラインについては、EVOLUREでは現在未展開であり、誠実にその旨をお伝えしておきます。

5. 実践——冷房の季節の守りの設計

構造の理解を、日々の行動に落とし込みます。難しいことではなく、TEWLを上げない環境と、モルタルを削らないケアの組み合わせです。

  • 室内の相対湿度を意識する。加湿や送風の向きの調整で、肌表面と外気の水蒸気勾配を小さく保つ。
  • 洗顔は熱すぎないぬるま湯で、回数を増やしすぎない。過剰な洗浄はモルタル(細胞間脂質)を流出させTEWLを上げる。
  • 化粧水で水分を与えたあと、必ず脂質性の蓋(エモリエント/閉塞剤)で閉じ込める。吸湿剤だけでは乾いた空気に水を奪われやすい。
  • テカりが気になっても皮脂を取りすぎない。インナードライの悪循環を断つには、取るより保つ発想を優先する。

夏の乾燥は気づきにくいぶん、対策が後手に回りがちです。けれど、肌の保水は「水の量」ではなく「逃がさない構造」で決まるという原則を一度理解すれば、季節を問わず判断軸はぶれません。見えない乾燥に対して、構造で守る。それがKAIANが提案する、長く付き合える肌のための考え方です。

エビデンス濃度の視点

この記事で触れた成分も、大切なのは「配合されているか」ではなく「効果が示された濃度で入っているか」です。成分表示の読み解き方は エビデンス濃度という視点 で解説しています。

参考文献

本記事の科学的記述が依拠する主な査読論文です。

  1. van Smeden J, Janssens M, Gooris GS, Bouwstra JA. The important role of stratum corneum lipids for the cutaneous barrier function. Biochim Biophys Acta. 2014;1841(3):295-313. PubMed
  2. Kezic S, Kammeyer A, Calkoen F, Fluhr JW, Bos JD. Natural moisturizing factor components in the stratum corneum as biomarkers of filaggrin genotype: evaluation of minimally invasive methods. Br J Dermatol. 2009;161(5):1098-1104. PubMed
※本記事は化粧品成分に関する参考情報であり、効果を保証するものではありません。数値・試験結果は条件により異なります。医薬品的効能を示すものではありません。
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