Skin Longevity 連載

真皮の三本柱 — コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸の分業

KAIAN R&D Team | 公開: 2026年10月20日

「ハリ」や「弾力」という言葉は、化粧品の世界でほとんど合言葉のように使われます。けれど、その手応えが肌のどこで生まれているのかを正確に説明できる人は多くありません。答えは、表皮のさらに下、皮膚の厚みの大部分を占める真皮(しんぴ)にあります。真皮は、たった一種類の細胞が織り上げた精巧な網目構造です。今回は、その網目を構成する三大成分——コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸——がそれぞれ何を担い、どう連携しているのか。そして「塗る」ことと「飲む」ことで何が変わるのかを、エビデンスの強弱を率直に添えながら整理します。

この三つを「同じ保湿・ハリ成分」として一括りに語る記事は少なくありません。しかし三者の役割は驚くほど分業されており、その分業を理解することは、自分の肌の変化を構造として捉える第一歩になります。

1. 真皮という工場と、その職人

真皮の主役は線維芽細胞(せんいがさいぼう/fibroblast)です。この細胞は、自分の周りに張り巡らされた構造物——細胞外マトリックス(ECM/extracellular matrix)——をほぼ一手に産生しています。コラーゲンも、エラスチンも、ヒアルロン酸も、プロテオグリカンも、すべて線維芽細胞という一人の職人が編み出す製品です。つまり真皮のハリとは、個々の成分量の問題であると同時に、職人がどれだけ元気に働いているかの問題でもあります。

真皮を語るとき、私たちはつい「コラーゲンが減った」と成分の在庫だけを見がちです。しかし本質は、それを作る線維芽細胞の活性が加齢・紫外線・糖化で低下していくこと。在庫切れの前に、まず工場の稼働率が落ちているのです。

加齢とともに線維芽細胞は数を減らし、ECMを産生する能力も衰えます。紫外線(光老化)はマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)という分解酵素を誘導してコラーゲンを切断し、糖化(AGEs)は線維同士を硬く架橋して弾力を奪う——これらが複合的に進むのが真皮のエイジングです。だからこそ、足りない成分を外から補うという発想と、職人の働きを支えるという発想は、分けて考える必要があります。

真皮三大成分の役割分担線維芽細胞が編む鉄筋・ばね・水分線維芽細胞全ECMを産生する職人コラーゲン強度を担う肌の鉄筋エラスチン伸びて戻るばねヒアルロン酸隙間を満たす保水

2. 三大成分の役割分担

コラーゲンは真皮の乾燥重量のおよそ7割を占める主柱で、引っ張りに対する強度——いわば肌の「鉄筋」を担います。エラスチンは量こそ数%とわずかですが、伸びて元に戻る「ばね」の役割を持ち、これが衰えるとたるみとして表れます。そしてヒアルロン酸は、自重の数百倍ともいわれる水を抱え込み、コラーゲンとエラスチンの隙間を満たす「クッションの水分」です。鉄筋・ばね・水分。この三層が揃って初めて、押し返すようなハリと、つまんで離したときの戻りの速さが生まれます。

  • コラーゲン(強度):束になって張力を支える。主にⅠ型とⅢ型。
  • エラスチン(弾性):一度失われると再生が極めて遅く、予防的視点が重要。
  • ヒアルロン酸(保水)プロテオグリカンとともにゲル状の基質を作り、栄養や信号の通り道にもなる。

化粧品としてはヒアルロン酸Naがよく配合されますが、分子が大きいため主な働きは肌表面での保水と平滑化です。真皮内部の三大成分そのものを「塗って補充する」ことは、分子サイズの壁から現実的ではありません。ここが、後述する「塗布vs摂取」の議論の出発点になります。

3. 塗る科学——届くのは「材料」ではなく「合図」

スキンケアで真皮にアプローチする鍵は、コラーゲンそのものを届けることではなく、線維芽細胞に『作りなさい』という合図を送ることにあります。その代表が各種シグナルペプチドです。たとえばパルミトイルトリペプチド-1パルミトイルペンタペプチド-4(Matrixyl®)は、コラーゲン分解時に生じる断片を模倣し、線維芽細胞に修復シグナルとして働くことが報告されています。銅トリペプチド-1(GHKの銅錯体)もコラーゲン産生やMMP調節への関与が研究されてきた成分です。

合図を送るのはペプチドだけではありません。レチノールはレチノイン酸へ変換され、コラーゲン産生の促進とMMPの抑制という両面から作用することが、ヒト試験を含む比較的厚いエビデンスで支持されています。アスコルビン酸はコラーゲン合成に不可欠な補酵素であり、土台の栄養として欠かせません。ナイアシンアミドも角層機能や色ムラに加え、線維芽細胞活性への寄与が示唆されています。さらにプロテオグリカンや成長因子様のFGF系成分、PDRNなどは、より直接的に細胞活性を狙う設計として注目されますが、化粧品塗布での真皮到達と効果の大きさについては、まだ慎重に読むべき段階です。

塗るケアの本質は「材料の補充」ではなく「指示書の送付」。コラーゲンを塗ってもコラーゲンにはなりませんが、線維芽細胞へ正しい合図を送り続ければ、肌は自ら作る力を保ちやすくなる——これがエビデンスから読み取れる現実的な期待値です。

4. 飲む科学——加水分解コラーゲンの行方

「飲むコラーゲン」はかつて、消化されてただのアミノ酸になるだけだと否定されてきました。しかし近年は、加水分解コラーゲン(コラーゲンペプチド)の一部がプロリン-ヒドロキシプロリンなどのジペプチドの形で血中に取り込まれ、それが線維芽細胞への一種のシグナルとして働く可能性が研究されています。複数のヒト試験で皮膚の水分量や弾力の指標に改善が報告されており、肌に関するサプリメントの中では比較的データが蓄積されている分野です。

ただし留意点もあります。試験ごとに用量・期間・原料が異なり、プラセボ効果や試験デザインの限界も指摘されます。摂取は全身に配分されるため、肌だけに集中して届くわけではありません。つまり摂取は「土台の底上げ」、塗布は「局所への合図」と捉え、どちらかではなく役割の違いとして併用を考えるのが、現時点で最も誠実な整理です。なおアスコルビン酸の同時摂取はコラーゲン合成の補酵素として理にかなっています。

5. KAIANの視点と、実践への落とし込み

KAIANが掲げるSkin Longevity(肌の機能寿命を延ばす)という思想は、真皮ケアと特に相性が良いものです。私たちはたるみやハリ低下を「治す」とは言いません。失われたエラスチンを完全に元へ戻すことは、現在の化粧品科学では困難だからです。代わりに目指すのは、線維芽細胞という職人が長く元気に働ける環境を保ち、分解(MMP・糖化・光老化)の速度を緩めること。攻めの再生よりも、稼働率の維持です。

実践としては、次の優先順位が現実的です。第一に紫外線対策——MMPを誘導する最大要因を断つことが、どんな美容成分よりコラーゲンを守ります。第二にレチノールとビタミンCの土台——産生促進と補酵素の両輪。第三にペプチドによる合図の上乗せ。そして余力があれば、加水分解コラーゲンの摂取を「底上げ」として加える。なお、EVOLUREにおける真皮特化のインナーケア領域は現在未展開であり、無理に勧めることはしません。大切なのは製品ではなく、構造の理解です。

ハリと弾力は、足し算で買うものではなく、引き算を遅らせて守るもの。真皮の三大成分を「鉄筋・ばね・水分」と捉え、それを編む職人を労わる。これがSkin Longevityの真皮戦略です。

コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸は、それぞれ強度・弾性・保水という異なる仕事を持ち、たった一種類の線維芽細胞がそれらを編み続けています。塗るケアは合図を、飲むケアは土台を担い、どちらも「自ら作る力」を支えるための手段です。成分名のきらびやかさに惑わされず、構造と分業で肌を見る——その視点こそが、長く付き合える肌づくりの出発点になります。

エビデンス濃度の視点

この記事で触れた成分も、大切なのは「配合されているか」ではなく「効果が示された濃度で入っているか」です。成分表示の読み解き方は エビデンス濃度という視点 で解説しています。

参考文献

本記事の科学的記述が依拠する主な査読論文です。

  1. Griffiths CE, Russman AN, Majmudar G, Singer RS, Hamilton TA, Voorhees JJ. Restoration of collagen formation in photodamaged human skin by tretinoin (retinoic acid). N Engl J Med. 1993;329(8):530–535. PubMed
  2. Pickart L. The human tri-peptide GHK and tissue remodeling. J Biomater Sci Polym Ed. 2008;19(8):969–988. PubMed
  3. Choi YL, Park EJ, Kim E, Na DH, Shin YH. Dermal Stability and In Vitro Skin Permeation of Collagen Pentapeptides (KTTKS and palmitoyl-KTTKS). Biomol Ther (Seoul). 2014;22(4):321–327. PubMed
  4. Tometsuka C, et al. Ingestion of a collagen peptide containing high concentrations of prolyl-hydroxyproline and hydroxyprolyl-glycine reduces advanced glycation end products levels in the skin and subcutaneous blood vessel walls: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Biosci Biotechnol Biochem. 2023;87(8):883–889.
※本記事は化粧品成分に関する参考情報であり、効果を保証するものではありません。数値・試験結果は条件により異なります。医薬品的効能を示すものではありません。
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