私たちの肌には、1cm²あたり約100万個の微生物が棲んでいます。この「皮膚マイクロバイオーム」と発酵成分の関係を理解することは、次世代スキンケアの核心です。
皮膚常在菌叢の主要プレイヤー
Staphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)は、優勢な常在菌の一つ(どの菌が優勢かは部位によって異なります)で、抗菌ペプチド(AMP)を産生して病原菌の定着を阻止します。グリセリンを代謝し、保湿因子を生成する役割も担います。
Cutibacterium acnes(アクネ菌)は、皮脂を分解してプロピオン酸を産生し、肌のpHを弱酸性に保ちます。過剰増殖するとニキビの原因となりますが、適度な存在はバリア機能に貢献します。
Malassezia(マラセチア)は真菌の一種で、皮脂をエサに脂肪酸を産生します。過剰増殖は脂漏性皮膚炎やフケの原因となります。
スフィンゴミエリナーゼとセラミド変換
S. epidermidisが産生するスフィンゴミエリナーゼは、角質層のスフィンゴミエリンをセラミドに変換します。セラミドはラメラ構造を形成し、バリア機能の根幹を担う脂質です。つまり、常在菌が健全に機能することで、肌のバリアが維持されるのです。
ディスバイオシスと肌トラブル
ディスバイオシス(菌叢バランスの崩壊)は、過度な洗浄、抗生物質の乱用、ストレスなどで引き起こされます。S. aureusの異常増殖はアトピー性皮膚炎、C. acnesの過剰増殖はニキビ、Malasseziaの過剰増殖は脂漏性皮膚炎と関連します。
発酵成分がマイクロバイオームに与える影響
ポストバイオティクス(発酵成分)は、以下のメカニズムでマイクロバイオームをサポートします。
1. pH維持: 乳酸や有機酸が肌のpHを弱酸性(4.5-5.5)に保ち、善玉菌の優位環境を維持します。
2. 抗菌ペプチド供給: 発酵過程で産生されるバクテリオシンが、病原菌の増殖を選択的に抑制します。
3. Treg分化促進: 短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸)が制御性T細胞(Treg)の分化を促進し、過剰な免疫応答を抑制します。
短鎖脂肪酸の免疫調節作用
短鎖脂肪酸(SCFA)は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を阻害することで、抗炎症性サイトカイン(IL-10)の産生を促進し、炎症性サイトカイン(IL-6, TNF-α)を抑制することが報告されています。ただし、こうしたTreg分化やSCFAの免疫調節作用の多くは主に腸管を対象とした研究で示された知見であり、塗布した発酵成分が皮膚で同じように働くと確認されたわけではありません。現時点では、発酵成分が肌のコンディションを整えうる機序上の妥当性が示唆される段階であり、特定の疾患を治療・改善する効果を示すものではありません。
参考文献
本記事の科学的記述が依拠する主な査読論文です。
- Zheng Y, Hunt RL, Villaruz AE, Fisher EL, Liu R, Liu Q, Cheung GYC, Li M, Otto M. Commensal Staphylococcus epidermidis contributes to skin barrier homeostasis by generating protective ceramides. Cell Host Microbe. 2022;30(3):301-313.e9. PubMed
- Furusawa Y, Obata Y, Fukuda S, Endo TA, Nakato G, Takahashi D, et al. Commensal microbe-derived butyrate induces the differentiation of colonic regulatory T cells. Nature. 2013;504(7480):446-450. PubMed