Skin Longevity 連載

冬本番の脂質バランス ― 内と外から肌の油を設計する

KAIAN R&D Team | 公開: 2026年12月1日

12月。空気が乾き、暖房が肌から水分を奪い、洗顔後すぐにつっぱる季節が来ました。多くの人がこの時期、保湿クリームの量を増やします。それは正しい対応ですが、半分でしかありません。冬の乾燥は「水分が足りない」だけでなく「油(脂質)の質と量が崩れる」という、より根の深い問題だからです。今回は、肌バリアを支える脂質を「外側から塗る油」と「内側でつくられる油」の両面から見つめ、冬本番をどう設計するかを科学的に整理します。

1. 皮脂は季節で組成が変わる

皮脂は単なる「テカリの原因」ではありません。皮脂腺から分泌されるトリグリセリド・脂肪酸・ワックスエステル・スクワレンなどが、汗由来の水分や角質由来のセラミドと混ざり合い、肌表面に薄い保護膜(皮脂膜)をつくります。重要なのは、この分泌量が気温に強く依存することです。研究では、外気温が1℃下がるごとに皮脂分泌が目に見えて減少することが報告されており、冬は夏に比べて皮脂量が大きく落ち込みます。

さらに皮脂膜が薄くなると、その下にある角質層の脂質バリアが直接外気にさらされます。角質細胞間を埋めるセラミド・コレステロール・遊離脂肪酸からなるラメラ構造は、冬の低湿度下で水分蒸散(TEWL)を抑える最後の砦です。皮脂という「上掛けの油」が減ると、この内部脂質への負担が一気に増すのです。

冬の脂質バリア 三層補強モデル外側・内側・構造の三方向から脂質を支える皮脂膜(外)冬は分泌減。スクワラン等で補うラメラ構造(構造)セラミドが水分蒸散を防ぐ砦必須脂肪酸(内)食事のリノール酸・オメガ3が材料水油の橋渡しレシチンが水分と油を一体化酸化防御トコフェロールで補った油を守る

2. 必須脂肪酸という設計図

肌の脂質を語るうえで外せないのが「必須脂肪酸」です。これは体内で合成できず、食事から摂る必要がある脂肪酸で、代表がα-リノレン酸(オメガ3)とリノール酸(オメガ6)です。とくにリノール酸は、表皮で最も豊富なセラミドの一種である「アシルセラミド」の構成材料となり、ラメラ構造を正しく組み上げるための土台になります。リノール酸が不足すると、本来そこに入るべき場所がオレイン酸で置き換わり、バリアが緩んで水分が逃げやすくなることが古くから知られています。

肌の油は「量」だけでなく「種類」が問われます。塗る油も食べる油も、どの脂肪酸を補っているかで、バリアへの貢献が変わります。

外側からのアプローチでは、リノール酸を豊富に含むヒマワリ種子油や、皮脂のワックスエステルに構造が近いホホバ種子油が、皮脂膜を補ううえで理にかなった選択肢です。皮脂類似の油は、過剰なベタつきを避けながら不足分を埋めやすいという特徴があります。

3. 内側からの油 ― 経口オメガ3とバリア

脂質ケアは塗るだけで完結しません。バリアの材料は最終的に体内の脂質代謝から供給されるため、「食べる油」も無視できません。複数の介入研究で、経口のオメガ3脂肪酸(EPA・DHA)やγ-リノレン酸を含む油の摂取が、TEWLの低下や肌の保湿状態の改善と関連したことが報告されています。メカニズムとしては、必須脂肪酸が炎症性エイコサノイドの産生バランスを整え、バリア構成脂質の供給を支えることが想定されています。

ただし、これらは医薬品的な「治療」ではなく、栄養としての底上げと理解するのが誠実です。効果の出方には個人差があり、数週間から数か月という時間軸で評価される性質のものです。即効性を期待するより、冬の数か月を通じた土台づくりと位置づけるのが現実的でしょう。

4. 外側の補強 ― スクワラン・シア脂・レシチン

減った皮脂を外から補う「エモリエント」も冬の主役です。スクワランは、もともと皮脂に含まれるスクワレンを安定化させた成分で、肌なじみがよく酸化に強いのが利点です。皮脂膜の代役として、軽い質感のまま水分蒸散を抑える働きが期待できます。より重い閉塞性が欲しい乾燥部位には、飽和脂肪酸とビタミン類を含むシア脂が適しています。

そして、水分と油分を橋渡しするのがレシチンです。レシチンはリン脂質で、細胞膜の主要構成成分でもあり、処方中では乳化剤として、また肌上では脂質となじむ膜形成成分として働きます。水系の保湿成分であるグリセリンヒアルロン酸Naを抱えた層と、油の層を一体化させる役割を担い、塗布後の「うるおいの持続」を底支えします。バリア修復という観点では、不足しがちなフィトスフィンゴシンのようなセラミド前駆体を組み合わせる設計も合理的です。

5. KAIANの視点と冬の脂質戦略

KAIANが掲げるSkin Longevity(肌の機能寿命を延ばす)の発想では、冬の脂質ケアは「乾燥を一時的にしのぐ」作業ではなく、「バリアという機能を季節に合わせて維持する」設計です。皮脂が減る季節に、外から皮脂類似の油を足し、内から必須脂肪酸を補い、構造材であるセラミドを支える。この三層の補強が、機能を長く保つ考え方の核心です。

エイジングを治すのではなく、機能を保つ。冬の脂質ケアは、肌が本来持つバリア性能を季節に負けさせないための、地味だが本質的な投資です。

実践としては、次の優先順位が現実的です。①洗いすぎを避ける(皮脂を奪い過ぎない)。②化粧水で水分を入れた後、レシチンやスクワランを含む乳化系で「水分の層」に蓋をする。③特に乾く頬・口元・目元にはシア脂など重めの油を重ねる。④食事ではオメガ3を含む魚や種実類を意識的に取り入れる。⑤トコフェロールのような抗酸化成分を併せ、補った油の酸化を抑える。なお、こうした脂質設計をワンステップで担う製品を自社ブランドEVOLUREでは現在未展開であり、今は成分とスペックの考え方そのものをお届けします。

冬の肌は、油を「足す」だけでも「我慢する」だけでもうまくいきません。どの油を、どこから、どの順で補うか。その設計図を持つことが、乾燥の季節を機能で乗り切る最短距離です。

エビデンス濃度の視点

この記事で触れた成分も、大切なのは「配合されているか」ではなく「効果が示された濃度で入っているか」です。成分表示の読み解き方は エビデンス濃度という視点 で解説しています。

参考文献

本記事の科学的記述が依拠する主な査読論文です。

  1. Hansen HS, Jensen B. Essential function of linoleic acid esterified in acylglucosylceramide and acylceramide in maintaining the epidermal water permeability barrier. Evidence from feeding studies with oleate, linoleate, arachidonate, columbinate and alpha-linolenate. Biochim Biophys Acta. 1985;834(3):357-363.
  2. Handeland K, Wakeman L, Burri L, et al. Krill oil supplementation improves transepidermal water loss, hydration and elasticity of the skin in healthy adults: Results from two randomized, double-blind, placebo-controlled, dose-finding pilot studies. J Cosmet Dermatol. 2024;23(12):4089-4100. PubMed
  3. Williams M, Cunliffe WJ, Williamson B, Forster RA, Cotterill JA, Edwards JC. The effect of local temperature changes on sebum excretion rate and forehead surface lipid composition. Br J Dermatol. 1973;88(3):257-262. PubMed
※本記事は化粧品成分に関する参考情報であり、効果を保証するものではありません。数値・試験結果は条件により異なります。医薬品的効能を示すものではありません。
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